入り口はやさしいほうがいい。
「短歌に興味はあるけれど、いったいどうやって始めればいいのだろうか?」あるいは「そもそも短歌ってどんなもの?」という疑問をもっている人にとって、本書はそのタイトルの通り最適な入門書といえるのではないでしょうか。
普通入門書といえば、いきなりつくりかたの説明が始まるものが多いのですが、本書は少し違います。まず「名歌を味わう」と題して、28首の短歌(名歌)が取り上げられているのです。例えば次のような作品です。
ただ一人の束縛を待つと書きしより雲の分布は日日に美し ―三国玲子『花前線』
吾木香すすきかるかや秋くさのさびしききはみ君におくらむ ―若山牧水『別離』
水中より一尾の魚跳ねいでてたちまち水のおもて合はさりき ―葛原妙子『葡萄木立』
それぞれの歌に著者の簡単か説明がついています。つくりかたを知るよりも、まずは短歌を味わうこと、それがもっとも大切だとする著者の声が聞こえるような構成です。続く章立ては次のようになっています。
- 第1章 短歌づくりの基本を学びましょう
- 第2章 自分らしく短歌を詠んでみましょう
- 第3章 テーマを決めて詠んでみましょう
- 第4章 添削で短歌をレベルアップさせましょう
第1章では、短歌づくりの基本形、リズム、音数、字余り、字足らず、文語と口語、かなづかい、結句などについて触れています。第2章では、詠む対象、ことば選び、比喩、表記、固有名詞、オノマトペ、連作などについて述べています。第3章では、日常、仕事、人生、恋愛、旅、死などのテーマ別による解説、第4章ではよりよい短歌をつくるための添削について触れています。
本書を通して読めば、短歌のつくりかたが身につくのはもちろん、数多く有名な歌が引用されていますので、お気に入りの短歌がきっと見つかることと思います。初心者だけでなく、すでに実作している人にとっても、ためになるコラムや多くの短歌に触れることができ、新しい発見があることでしょう。
ちなみに著者は短歌結社「心の花」に属する歌人で、第39回短歌研究新人賞や第4回葛原妙子賞などの短歌界では名の知られた賞もとっている実力者です。著者自身の言語感覚の秀でた作品も魅力的ですが、本書はそんな著者の作品やその他の名歌に出合うための入り口となる一冊です。