『ホームレス歌人のいた冬』三山喬

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新聞歌壇だからこそつながりえた、こころの交差点。

多くの新聞は、読者投稿欄の紙面を設けています。そして朝日新聞には朝日歌壇という短歌の投稿面があります。本書は、その朝日歌壇をめぐる、ある歌人の姿を追いかけたノンフィクションです。

通常新聞歌壇は、選ばれた歌、住所、氏名(ペンネーム可)がセットとなって掲載されます。しかし住所の部分を「ホームレス」として投稿していたひとりの人物がいました。その人物こそ本書の謎の主役であり、「公田耕一」と名乗っていた人物です。

公田耕一」とはいったい誰なのか? 本当にホームレスなのか? そもそもこの名前は本名なのか? 読み方さえはっきりとはわかりません。

ほぼ毎週のように投稿歌が選ばれる「公田耕一」は、朝日新聞の朝日歌壇という場所には登場していますが、あまりに謎の多い人物です。新聞からわかるのは「公田耕一」という名前、「ホームレス」という情報、そしてほぼ毎週短歌を投稿していて紙面に掲載されているということです。

しかしある時、彼は朝日歌壇から姿を消してしまうのです。

ホームレスという境遇によって、歌が選ばれ続けたわけではなく、あくまで短歌としていい作品を投稿し続けていたからこそ、朝日歌壇での注目を浴びたのでしょう。

この「ホームレス歌人」とはいったいどんな人物であったのか、本書は、投稿された歌や周辺の情報など、さまざまな手掛かりを頼りに、その人物像に迫っていきます。

ホームレス歌人「公田耕一」の投稿歌を取り上げてみましょう。

鍵持たぬ生活に慣れ年を越す今さら何を脱ぎ棄てたのか
パンのみで生きるにあらず配給のパンのみみにて一日生きる
日産をリストラになり流れ来たるブラジル人と隣りて眠る
親不孝通りと言へど親もなく親にもなれずただ立ち尽くす
哀しきは寿町と言ふ地名長者町さへ隣りにはあり
百均の「赤いきつね」と迷ひつつ月曜だけは買ふ朝日新聞

2008年の冬、あのリーマン・ショックの後の冬に登場したひとりの「ホームレス歌人」。

彼の短歌は、当時同じ境遇にあった人々に深く共鳴したのではないでしょうか。彼の短歌を通して、表現することの意味、そしてあの時代の空気感を改めて考えさせられ感じさせられる一冊です。

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