得ようとするものはお金だが、得たものはお金だけではなかった
「お金持ちの定義とはいったい何でしょうか?」
一般的にわれわれは、お金と持っている人をお金持ちだと思っています。しかし本書でいうお金持ちの定義は少し異なります。
本書ではお金持ちを「お金の増やし方を知っている者」と述べています。
お金持ちとは現在お金を持っているかどうかよりも、お金をいかに増やすことができるかに焦点を当てているのです。お金をいくら持っていても、これから先の未来にお金が一円も増えないのであれば、保有しているお金がどんどん減っていくだけです。しかしお金の増やし方を知っている者は、これから先の未来、お金を増やしていくことができるのです。
本書は古代バビロニアのお金に対する考え方を物語に沿って理解できるつくりになっています。武器職人出身の主人公バンシルが、バビロニアの大富豪に至るまでの波乱万丈な出来事が満載です。もちろん順風満帆というわけにはいかないのですが、登場する難局がわれわれにお金に対する考え方つまり真理を教えてくれるのです。
よく引き合いに出される例ですが、本書でも魚と魚の釣り方の話が登場します。つまりこういうことです。これから無人島に行く人がいるとします。その人に今日一日分の魚をあげたとして、果たして意味があるでしょうか。その一日は魚を食べて飢えをしのぐことはできますが、次の日からはどうするのでしょう。無人島には魚屋さんはありません。自分で食料を調達しなければならないのです。つまり無人島に行く人に今日一日分の魚をあげるのではなく、その人には魚の釣り方を教えてあげる必要があるのです。魚の釣り方がわかれば、その日から自分自身で魚を得ることができるのです。
すなわち、物を与えるのではなく、知恵・手法を与えるということです。
ボランティアや国際協力において、この例はよく取り上げられます。現地の人々にとって、日本から訪れたボランティアや国際協力の専門家などは一時的なものなのです。永住するのではなく一定の期間を終えると、彼らは日本に帰ってしまうのです。であれば、現地の人々がボランティアや専門家から得るべきものは何か。その日一日の食料やお金ではないでしょう。これから先継続して、しかも自分の力で食料やお金を得ることができるための知恵こそ得るべきものでしょう。
本書には、このような話が随所にちりばめられています。そしてバビロニアのお金に対する考え方において最も重要なものが、以下に述べる「黄金に愛される七つの道具」と「五つの黄金法則」なのです。
黄金に愛される七つの道具
1. 収入の十分の一を貯金せよ
2. 欲望に優先順位をつけよ
3. 貯えた金に働かせよ
4. 危険や天敵から金を堅守せよ
5. より良きところに住め
6. 今日からの未来の生活に備えよ
7. 自分こそを最大の資本にせよ
五つの黄金法則
1. 家族と自分の将来のために収入の十分の一以上を蓄える者のもとには黄金は自らを膨らませながら、喜んでやってくるだろう
2. 黄金に稼げる勤め先を見つけてやり、持ち主が群れを膨大に増やす羊飼いのように賢明ならば、黄金は懸命に働くことだろう
3. 黄金の扱いに秀でた者の助言に熱心に耳をかたむける持ち主からは、黄金が離れることはないだろう
4. 自分が理解していない商い、あるいは、黄金の防衛に秀でた者が否定する商いに投資をしてしまう持ち主からは黄金は離れていくだろう
5. 非現実的な利益を出そうとしたり謀略家の甘い誘惑の言葉にのったり己の未熟な経験を盲信したりする者からは黄金は逃げることになるだろう
それぞれの意味するところや意図は、本書を通して読めば胸の内にすっと入ってくることでしょう。
そして重要なことは「行動する」こと。いくら知恵や手法を得たからといって実践しなければ目指すべきものに到達することはできません。この「行動する」ということが何より大切なのです。
終盤近くの第八章の副題は「なぜ人は働くのか。それは金のためではなかった」です。
なぜ働くのか、誰しもが一度は考えたことのある問題ではないでしょうか。働くために食うのか、食うために働くのか、ということもよくいわれます。
働くのは通常お金を得るためだと考えます。もちろんそれもあるでしょう。しかしお金だけが目的で、人は働くのでしょうか。いや働き続けることができるのでしょうか。
働くのがつらい、働きづらいという人々が増えている昨今、なぜ働くのかという問いは改めて考えてみる重要なものでしょう。この章にはひとつの答えが記されています。そしてそれは本書を最初から読み通した上でこの章に至ると、本章で述べられている回答に納得を覚えます。ぜひみなさんご自身で本書の回答に向き合っていただきたいと思います。
本書はマンガであり、肩ひじ張らずに読むことができます。しかし侮ることはできません。述べられている内容は実に奥が深い。その物語の熱意と相まって、自分自身に活気が出てくること間違いないでしょう。
まずは本書を読むという行動を興してみませんか。