山の言葉を知らなくても、山に登ることはできます。しかし山の言葉をひとつ知れば、その分だけ山の輪郭が立ち上がってくるはずです。
山登りやハイキングを始め立てのころは、一緒に登っている仲間が使う用語がわからないことが多々あるものです。「山の専門用語」とでもいうべき言葉を当たり前のように使いこなしている友人たちを見ると、少しうらやましいと感じてしまいます。
本書は、まだ山登りを始めたばかりの人にもわかりやすいように、ひとつひとつやさしく丁寧に山の用語が解説されています。著者は女性登山家としてあまりにも有名な田部井淳子氏です。著者の目を通した山言葉は、どれもが生き生きとしているようです。
- 山に登ろう
- 山の空
- 山の草木
- 富士いろいろ
- 山の季語
- 山の動物
- 高山への誘い
- 秋の彩り
- 雪山讃歌
- 沢と渓谷
- 岩の王国
- 山の道具
- 登山という行為
- 火山とその恵み
- 「山」と「峰」の付く言葉
大きくこのような章にわけて言葉が収録されているため、似たような言葉を近くのページで比較しながら読めることも本書の特徴です。いくつか収録されている山の言葉を並べてみます。
アイゼン、温泉、餓鬼の田圃、滝雲、アマツバメ、シャリバテ、御来光、指導標、ジャンダルム、アタック、ハクサンイチゲ、九十九折、吊屋根、天水、懸垂下降、冬季小屋、釜、雪田、ナナカマド、イヌワシ、デブリ、ピーク・ハント、ケルン、倉、鞍部、ホワイトアウト、霧氷、キレット、山笑う、ブロッケンの妖怪、カール、雪渓、エビのしっぽ、雪庇、シュカブラ、ヒマラヤ襞、縦走、一本立てる、稜線、水場、胸突き八丁、お花畑、ダイヤモンド富士・・・
聞いたことがある言葉でも、山で使われると山独特の意味合いをもつ言葉がありますが、そのような言葉も数多く取り上げられています。
そして本書の最大の特徴は、ただの単語帳に止まらず、言葉ひとつひとつに写真がついていることです。写真家・栗田貞多男氏による美しい写真が、単語の理解を促進させてくれます。どのページを開いても、山に関する言葉と写真が読者を山の世界に誘ってくれるのです。覚えようとしなくても、見ているだけで心が落ち着く、そんな一冊になっています。