生きるという縦糸に、時代という横糸。
心理学者として知られる著者が、産経新聞に連載してきたコラムをまとめた一冊です。時代のなかに生きるということに対する、具体的な72の提言が掲載されています。タイトルからキーワードを拾っていくとさまざまな問題やテーマが浮き彫りになってきます。「バブル化した教育」「葬儀文化」「いじめ」「汚職」「援助交際」「銃乱射事件」「子育て」「虐待」「引きこもり」「スローフード」など内容は多岐にわたります。中でも印象に残った「「解答を得る」という罠 悩み続ける努力こそ」から次の文章を引用したいと思います。
現代人はどんな事象に対しても、「なぜ」と問いかけ、その答が簡単に得られ、それによって安心する、というパターンにはまりこみすぎている
1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件に対する人々の反応やマスコミ関係者からの質問に対して、著者が感じたことがこの一節に現れています。この事件における犯行の解説や解明がさまざまに登場しましたが、そのような答えが容易に手に入るということはなく、原因は簡単にわかるはずがないというのが著者の意見です。「なぜ、なぜ、なぜ・・・」を繰り返していくことが大切なのでしょう。現代はインターネットで検索すれば、あらゆることがなにがしかの回答をもって表示されます。しかし、そこに書かれていることは本当に正しいのでしょうか。自分にとって納得のいく答えなのでしょうか。自分で考えることを経ずして得た答えは本当に価値のあるものなのでしょうか。もっと自分で悩んで考え、その先にある何かにようやく答えらしきもの、しかも自分が自分の思考によってたどりついた答えらしきもの、その行為と結果をわれわれはもう少し大切に扱っていかなければならないのかもしれないと感じます。